頸椎症性脊髄症 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.01

頸椎症性脊髄症(けいついしょうせいせきずいしょう)

Cervical spondylotic myelopathy

執筆者: 星地 亜都司

概要

 頚椎の椎間板変性、骨棘形成、椎間関節の変性、脊柱靭帯(後縦靭帯か黄色靭帯)の肥厚、さらにこれらの変化に伴って発生する脊椎不安定性など、脊椎の加齢現象によって疼痛や神経症状が生じた状態を(変形性)頚椎症と呼ぶ。このような変形性頸椎症とよばれる状態によって、頸椎内の脊髄の通り道である脊柱管に狭小化が生じ、内部の脊髄組織が圧迫されることによって、四肢体幹のしびれ、筋力低下、膀胱直腸障害などの神経症状が発生した病態が「頸椎症性脊髄症」である。日本人の頸椎手術対象疾患のなかでも 、もっとも手術頻度の高い疾患である。

病因

 椎間板の変性、椎間関節の変性、それらに起因する頚椎異常可動性(不安定性)や頚椎弯局異常などが頚椎症の実態である。いずれも脊椎の加齢現象であるが、そのような加齢現象の起きやすさ、重症化しやすさの原因はまったく不明である。

病態生理

 四肢の麻痺症状(脊髄症状)発生のメカニズムとしては、変性した椎間板の後方突出、椎体隅角部での骨棘形成が前方からの脊髄圧迫因子となる(図1)。



(図1)頸椎症性脊髄症のMRIT2強調画像  前方からは骨棘(骨の突出:矢印)と椎間板(矢頭)、後方からは肥厚した黄色靭帯(点線矢印)による脊髄圧迫があり、頸髄内の高輝度変化がある。



 先天的あるいは発育性に頚部脊柱管前後径が狭いものに脊髄症状が発生しやすい。肥厚した黄色靭帯が頚椎後屈時に硬膜管側にたわむこと、頚椎の動きによって頚椎椎体隅角部と後方の黄色靭帯、椎弓との距離が狭まり硬膜管の狭小化が増強されること(ピンサーメカニズムと専門用語では呼ばれている) など後方要素をも含めた動的因子も脊髄症悪化要因となる。脊髄腫瘍に比して、頚髄症患者の頚髄圧迫の程度は重度ではない。にもかかわらず麻痺が進行してゆく要因として、神経そのものへの障害のほか、血液循環障害が大きく関与するという考え方がある。頚髄症とは、繰り返し受ける動的な圧迫により微小な脊髄損傷の蓄積状態であるという説もある。

臨床症状

自覚症状


手足のしびれ、脱力感、手指の使いにくさ(ボタンがかけにくい、字を書きにくいなど:巧緻運動障害という)、歩きにくさが典型例での症状となる。進行例では四肢麻痺がより重症化し、膀胱障害(おしっこができらない、回数が多い、残尿感、失禁)や便秘が出現する。しびれの範囲、筋力低下の部位は、頸髄の障害高位によって個人差がある。

他覚症状


軽症例では手指の狭い範囲での感覚低下と下肢の腱反射(膝のおさらの下を打腱器で叩くと下腿が反応する手技)が強くでるだけであるが、進行するほど四肢筋力低下が明らかとなる。手指の握ったり開いたりを早く行うよう指示してもうまくできないことを検知できる。

診断・鑑別診断

 頸椎症性脊髄症ではX線写真とMRIにて椎体後方隅角部の骨棘、変性膨隆した椎間板、肥厚した黄色靭帯などによる頸髄圧迫の所見があり、多くの場合、MRIのT2強調画像で脊髄内に高輝度信号変化を伴い(図1)、画像所見と神経所見との整合性があれば診断できる。

 先に述べたように、手指の巧緻運動障害、歩行障害、膀胱直腸障害などが進行例の主症状であり、四肢のしびれや知覚障害を伴う。経過や神経学的所見から多発性硬化症、パーキンソン病、運動ニューロン疾患、脳障害、脊髄サルコイドーシスなど神経内科的疾患を除外する必要があり、迷ったら専門医 (日本脊椎脊髄病学会指導医など)の診断を仰ぐべきである。四肢不全麻痺があっても知覚障害がない場合、運動ニューロン疾患やパーキンソン病を疑う必要がある。麻痺が重度でも,MRIで頚髄圧迫に伴う髄内輝度変化がなければ他疾患を疑う根拠となる。

治療

 保存的治療(頸椎装具と薬物治療)を行う余地があるかどうかの初期決定がまず必要となる。

 麻痺が進行性であったり、日常生活に大きな支障をきたしたりする場合に手術適応となり漫然と保存治療を続けるべきではない。椎弓形成術という安定した術式が確立されてきていることが積極的に手術を薦める大きな要因となっている。壮年者、前期高齢者の場合、麻痺が軽度の場合でもMRI上圧迫が強く脊髄内の信号変化がある場合には、早期の手術を考慮することがある。罹病期間が長いこと、術前重症度が高いことが手術成績を落とす要因であることは、疑いの余地が少ない。手術方法については頸椎の後方からアプローチする椎弓形成術(図2)と前方からアプローチする前方除圧固定術(図3)がある。

 頸椎脊柱管が全般的に狭い症例が日本人には多いため、後方法が選択されることが多い。両術式とも手術成績は概して良好といえる。5%程度に術後の上肢筋力低下(肩があがりにくくなるなど)が発生することが知られているが数ヶ月以内に回復することが多い。頸部痛が残算するケースが1割から2割存在するといわれている。

 頚髄症であっても片側限局性の指のしびれや痛みが主症状の場合、保存治療(薬物治療、頚椎装具治療、注射)が奏効することがある。しかしながら頚髄症が顕在化していてMRIで脊髄病変が明らかである場合、保存療法を省略するのが最近の傾向にある。高齢者では手術適応を決める際に、虚血性心疾患、糖尿病、痴呆等の合併症の有無が問題となる。リスク評価を含め他科との連携が重要である。

 軽度の頚髄症に対し、頚椎装具を主体とした保存治療と手術治療群とで2年成績に差がなかった、というランダム化試験(RCT)がある。頚椎装具が、軽症の頚髄症例に対し短期的には有効であることを中等度のエビデンスとして支持するものであるが、頚髄症自体が長期にわたって経過をみないと意味がない性質の疾患であり、脊髄の不可逆性が増えればいずれ手術になった場合の成績が不良となることも予想される。軽症例に対する手術のタイミングについては、わが国の整形外科医と脳神経外科医とでも意見が分かれるのが現状である。手術を受けるべきか否か、セカンドオピニオン外来で頻繁に問題となる。

 薬物療法として非ステロイド系消炎鎮痛剤, 筋弛緩剤、安定剤などが、疼痛、しびれ、四肢のこわばりなどに対し使用されてきている。付随する不安や不眠に対し、抗うつ剤を使用することがある。これらの薬剤は対症療法として日常診療上、使わざるをえないが、頚髄症に対する効果は実際のところは不明である。最近、血行改善作用のあるプロスタグランディン製剤を使用する施設もあるがまだ有効性が証明されていないため保険適応となっていない。

 頚髄症悪化の予防策として、生活指導がある。 頸部疾患の多くで、頸椎後屈位が症状悪化の要因となりやすいことが知られている。うがい、洗濯物干し、コンピュータ作業時などに顎を上げた頸部ポジションをとること、床屋での髭剃りなどが、これに相当するため、避けるべき注意点として指導事項に含める。睡眠時の枕にも注意を払う必要があり、顎があがらないよう注意を喚起する。水泳と頚部の体操は中止してもらう。

 転倒、転落が頚髄症を悪化させ、手術成績を落とす要因である可能性があるので、転倒に対する注意を促すことは重要である。浴槽や段差がある場所が危ない。しかしながら、一部の患者では、転倒による悪化のリスクを強調しすぎると過敏になりすぎて足がすくんでしまうということがある。表現に注意することが医師に求められるが、現実的には階段からの転落が最も問題となりやすいから、エレベーターやエスカレーターを使用し階段などの危なそうなところは避ける、というアドバイスが現実的であろう。ただし以上のような生活指導は経験的なものに基づくものであって、有効性が証明できたものではない。

 生活指導以外で頚髄症の進行を予防できる手段は今のところない。頚椎の老化には椎間板の変性が大きく関与していることは想像に難くないが、サプリメントも含め食生活上も推奨できるものがない。

 頚髄症に対し運動療法が有効である科学的根拠はない。針灸を含めた代替医療についても根拠はない。カイロプラクティスによる頚椎他動運動によって、頚髄障害が悪化して裁判となっている事例がある。



(図2)頸椎椎弓形成術  頸椎の後方を拡大して、せまくなった脊柱管(脊髄の通り道)を拡大する。



(図3)頸椎前方除圧固定術  前方から進入して圧迫因子を除去した後に、骨盤の骨を移植する。

予後

 頸椎椎弓形成術の10年以上フォローの長期成績がいくつも報告されており、成績は良好ではあるが、しびれが完全にとれるわけでもない。罹病期間が長かったり、術前に麻痺が重症であるほど、術後成績がやや落ちる傾向にある。

理学療法の位置付け

 頚部愁訴に対しホットパックやスーパーライザーといった理学療法があるが、有効性については不明といわざるを得ない。軽症の頚髄症に対しては頚椎装具による局所安静治療が短期的には有効であることがあり、早期手術を希望しない患者に対し薬物治療と併用して試みる価値はある。装具着用時には通常、頸椎を軽度前屈した姿位をとらせると患者が楽であることが多い。足元が見にくくなる場合があるので注意を喚起する必要がある。外来で行う頚椎介達牽引では 10Kgを超える重量負荷を行っている施設が多い。頚髄症に対する外来牽引は麻痺悪化の症例報告があり、かつ有効性は証明できていないので避けるべきである。

ガイドライン

 医師向けに作成されたエビデンス集が2005年に発刊されている1)。

参考文献

1) 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会,頚椎症性脊髄症ガイドライン策定委員会 編集:頚椎症性脊髄症診療ガイドライン,南江堂 2005

執筆者による主な図書

1) 星地 亜都司 編集:Critical Thinking脊椎外科,三輪書店 2008.03

2) 中村耕三 監修、星地亜都司・織田弘美・高取吉雄 編集:整形外科手術クルズス,南江堂 2006

(MyMedより)推薦図書

1) 伊藤彰一 著:神経MRI診断学,シービーアール 2009.11

2) 星野雄一 監修:しびれが気になるときに読む本 (早わかり健康ガイド),小学館 2007

3) 平林洌 著:肩こり・手足のしびれ―頸椎からくるトラブル,講談社 2000.05

4) 伊藤達雄, 戸山芳昭 総監修:腰痛、肩こり、手足のしびれ (別冊NHKきょうの健康),NHK出版 2004

5) 三井弘 著 :首は健康ですか?―肩こり・頭痛は危険信号 (岩波アクティブ新書) ,岩波書店 2002

6) 寺本純 著:「痛みやしびれ」がよくわかる本 (健康ライブラリー),講談社 2003

7) 加藤龍一 監修:ナースのための早引き整形外科ハンドブック,ナツメ社 2008

免責事項

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