MyMed(マイメド)は、究極の医療電子教科書の作成を通じて、利用者のニーズにあった理想的な医療情報サイトを作ろうというプロジェクトです。


HTLV-I infection
執筆者: 川上 清
HTLV-IはヒトT細胞白血病ウイルスI型(human T-cell leukemia virus type I)の略で、成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia ; ATL)を引き起こすウイルスとして知られる。
1977年に内山、高月ら1) が九州に多いTリンパ腫瘍を独立した疾患としてATLを報告し、その後1980年にはいりヒトT細胞白血病ウイルスが発見され、1981年にHinumaら2) がATLの原因ウイルスがHTLV-Iであることを報告した。
本ウイルスはレトロウイルス科に属し、同じヒトレトロウイルスのhuman immunodeficiency virus (HIV)と同様、血液中のTリンパ球に感染する。HTLV-Iの感染者の多くは無症候性キャリアであるが、一部がATLやHTLV-I関連脊髄症(HAM/TSP)などいくつかの疾患に関係することもわかってきた。
HTLV-Iはレトロウイルス科オンコウイルス亜科に属する一本鎖RNAウイルスで、全長9kbの遺伝子をもち、gag,pol,envという構成遺伝子がコードされている。さらに両側のlong terminal repeat (LTR)領域にはpX領域とよばれる特異な領域があり、tax, rex, p12, p30などの調節遺伝子が存在する。そしてその遺伝子産物の一つであるTaxは本ウイルスの生物学的特徴の中心で、強力な細胞増殖作用を有し、腫瘍化に関与している。
HTLV-Iは主にTリンパ球に感染し、感染細胞はCD4+を発現する。この感染細胞と標的細胞であるTリンパ球の接着によってのみ感染が成立し、同じCD4+を標的細胞とするHIVが遊離ウイルスでも感染が成立するのと異なり、HTLV-Iは遊離ウイルスでの感染はない。また、Tリンパ球以外でもBリンパ球、単球、樹状細胞などにも感染しうるといわれている。
HTLV-I感染者は世界中に1,000万人~2,000万人いると推定されている。地域偏在性があり、日本、カリブ海地方、西アフリカ、中東地方、南アメリカ、メラネシア地方に多くみられる。わが国のHTLV-I感染者は120万人といわれ、その半分は南西九州、沖縄に存在し、他は四国、紀伊、北陸、東北の沿海部にもみられる。
HTLV-IのTax遺伝子はHTLV-I感染細胞のサイトカイン産生や表面抗原の発現増強、HTLV-I感染細胞を不死化へと導き、細胞周期抑制因子の転写活性化や癌遺伝子の活性化、DNA修復の抑制、変異の増加など発癌に寄与していると考えられている。一方、Taxは宿主免疫系に認識される主な標的分子であるため、Taxの発現は細胞障害性Tリンパ球(CTL)の標的となり、攻撃を受け感染細胞が減少することにもなる。そこで腫瘍細胞となった後はtax遺伝子を不活化し、HTLV-Iは自己ウイルスを発現せず、CTLからの攻撃を回避して感染CD4+リンパ球をクローナルに増殖させてATLを発症させる。HIVが宿主の特異的CTLを主とする免疫系を障害し、自己ウイルスを発現、増殖しながらCD4+細胞を破壊し後天性免疫不全症候群(AIDS)を発症するのと対照的である。
発症したATL細胞の多くはCD4+CD25+を発現している。HTLV-I感染からATL発症まで数十年の潜伏期間が必要とされ、わが国のATL平均発症年齢は60歳である。一方、同じHTLV-IによるHAM/TSPの発症はATLより若く、40歳代が多い。また同じHTLV-I感染者から発症するATLとHAM/TSPが同一個人に併発することは極めて稀であることは、宿主側に要因があるといわれている。
HTLV-Iは血液中のTリンパ球に感染するため、血液を介した3つの経路がある。すなわち(1)輸血や薬物濫用静注による感染、(2)性交感染(おもに男性から女性へ)、(3)母子感染(母乳を主とする)の3経路があるが、1986年以降HTLV-Iキャリアからの献血は使用していないので、日本赤十字社の献血輸血からの感染は現在はない。ATL発症までは平均55年の潜伏期を有すため、性交感染からのATL発症はないといわれている。従ってATL発症のリスクは母子感染が重要となる。
HTLV-Iキャリアは通常何も症状を呈さず、治療の必要もない。関連疾患を発症すると種々の症状を呈す。
成人、特に50~60歳代が多い。HTLV-Iキャリアの中から毎年600~700人ほどが発症し、ATLの生涯発症率は5%程度といわれている。臨床像および予後因子から、急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型の4つの病型に分類される。
一般的な症状は全身倦怠感、発熱、リンパ節腫脹、皮疹、肝脾腫などが多くみられる。また消化管や中枢神経浸潤による腹痛、難治性下痢、頭痛、意識障害なども認める。また高カルシウム血症も高頻度に認められ、口渇、便秘、筋力低下などの症状を伴う。さらに免疫不全に伴う日和見感染も特徴的で、カリーニ肺炎、結核、サイトメガロウイルス感染症、糞線虫症など多彩な感染症を伴うことも多い。ATLでは末梢血に花びら細胞(flower cell)とよばれる核の切れ込みや分葉の著明なATL細胞(図1)を認めることが特徴である。

図1.ATL細胞
(HTLV-I associated myelopathy ; HAM / tropical spastic paraparesis ; TSP)
カリブ諸島と日本の南九州で成人に特異的な痙性脊髄麻痺患者が多発することがそれぞれ独自に報告され、いずれも抗HTLV-I抗体陽性であることより両者は同一疾患であることが認められ、HAM/TSPとよばれるようになった。ATLより発症年齢は若く、40歳代が多い。HTLV-Iキャリアからの生涯発症率は1%未満といわれ、男女比は女性に多い。緩徐進行性の歩行障害と排尿障害を主症状とし、経度の感覚障害も伴うことが多い。
(HTLV-I associated uveitis ; HAU)
20歳代以降の年齢層に幅広く分布し、飛蚊症、霧視、視力低下などの自覚症状がみられ、軽度の虹彩炎をほぼ全例に認める。
関節症、肺疾患、皮膚疾患、自己免疫性疾患などとの関連が提唱されているが、ATL、HAM/TSP、HAUほど確立されたHTLV-I関連疾患とはいいがたい。
HTLV-I感染の診断にはgelatin particle agglutination assay(PA法)やenzyme-linked immunosorbent assay(ELISA法)による抗HTLV-I抗体がスクリーニングとして用いられている。さらにimmunofluorescence method(IF法)、western blotting method(WB法)で確認試験を行っている。最近ではプロウイルス定量法も行われるようになり、高感度核酸定量法によるとキャリアの末梢血単核球中3%前後にHTLV-Iウイルスが検出されるという。
抗体による感染の判定の場合、乳児期には母親からの移行抗体が存在するので注意が必要である。すなわち、母親からのHTLV-I移行抗体は臍帯血や出生直後の児では全例陽性であり、出生後抗体価は徐々に低下し、生後6ヵ月から1年の間に消失する。したがってこの期間中は母子感染の確認は困難である。いったん移行抗体が消失、あるいは低下した後に再上昇するとPCR法によるウイルス抗原も陽性となり、感染が確認される3) (図2)。

図2. HTLV-I母子感染例における抗体価の推移とPCR陽転時期
そこで乳幼児期の抗体による感染の判断は、いったん移行抗体が消失ないし低下してから再上昇した場合をHTLV-Iの感染成立としている。我々の経験では、早いものでは生後6ヵ月で再上昇、遅いものでは生後2年で再上昇しているが、生後3年で抗体が陽転した例も報告されているので、3年以降に血清抗体の陽性をもって感染と判断している。
一方、ATLの診断は前述の症状に加え、抗HTLV-I抗体が陽性であること、末梢血に特徴的なATL細胞(flower cell)が認められれば容易である。血液学的には腫瘍細胞が末梢性T細胞であることを確認する。表面形質では一般的にCD4+CD8-CD25+である。症例によっては診断の困難な例では、白血病細胞や組織のリンパ腫細胞のDNAを抽出し、HTLV-IプロウイルスDNAがモノクローナルに組み見込まれていることをsouthern blot法で証明することが必要な例もある。
HTLV-I感染症に対する治療法はない。したがってHTLV-I感染予防が重要となり、キャリアがATLなどの関連疾患を発症した場合は、それぞれの治療を行う。
前述したHTLV-I感染経路として血液を介した3つの経路があるが、ひとたび発症すると予後不良なATLはHTLV-I感染から平均55年の潜伏期を必要とするため、小児期での感染は避けなければならない。
母子感染はこれまで母乳による感染が主と考えられている。1985年頃より長崎県ではHTLV-Iキャリア妊婦を対象として母乳介入試験を行い母子感染率が減少した。我々の研究では母乳のうち長期母乳哺育が感染のリスクとなることがわかった4) 。6ヵ月までの短期母乳哺育では母乳を全く与えない人工乳哺育のHTLV-I感染率と差がない結果であった。この理由としてキャリア母親からの移行抗体が感染に対して阻止的に働いていることが動物実験や他の疫学的報告からも推測されている。
一方、人工乳哺育児でも数%の感染率が報告されているが、その経路として子宮内感染が考えられている。これまでの報告では、短期母乳哺育での母子感染率は3~9%、7ヵ月以上の長期母乳哺育の感染率が20%前後、さらに非母乳による母子感染率は3~5%となっている。
したがってHTLV-Iキャリア妊婦から出生した児の栄養方法としては、(1)断乳して人工乳での哺育、(2)母乳を望む母親には短期母乳哺育を選択すべきと考える。なお短期母乳の場合、移行抗体の消失が3ヶ月以降におこる例もあるため3ヶ月までで断乳し、人工乳に移行することが必要である。
ATLに対する治療は病型で異なるが、一般に予後は不良である。その要因として患者は高齢者が多いこと、多臓器への浸潤傾向が強いこと、ATL細胞は抗癌剤に対し薬剤耐性を示すこと、免疫不全による日和見感染等重篤な感染症の合併が多いことなどがあげられる。最も予後不良の急性型・リンパ腫型には多剤併用化学療法が用いられているが、完全寛解率20~35%、生存期間の中央値が6~13ヶ月と悪い。
近年ATLに対し同種造血幹細胞移植が試みられ、これまでの多剤併用化学療法より良好な成績も報告されている。また高齢者にも骨髄非破壊的同種造血幹細胞移植が行われるようになり、以前より予後の改善が期待される。
HAM/TSPやHAUなどのHTLV-I関連疾患も特異的な治療薬はなく副腎皮質ステロイド剤などが用いられている。
HTLV-I関連疾患が難治性疾患であるだけにHTLV-Iに対する抗ウイルス薬の開発が待たれるがなかなか確実な薬剤がない。中和抗体の効果も期待されるためワクチン開発も以前から期待されたが、これも遅々として進んでいない。母乳による感染の予防はわが国ではある程度効果があり、侵淫地区である長崎や鹿児島では母子感染率が減少している。しかし世界的にみると、特に開発途上国では経済的な理由もあり、いまだに長期母乳哺育が優勢で、感染予防対策が進んでいない地域もある。EBウイルスやHIVなどの他の発ガンウイルスよりも病因・病態が急速に解明されてきたHTLV-Iであるが、抗ウイルス薬の開発が取り残された感があるのはendemicな感染症であるからなのか。一刻も早い薬剤の開発が待たれる。
1) Uchiyama T, Yodoi J, Sagawa K, Takatsuki K, Uchino H. Adult T-cell leukemia: clinical and hematologic features of 16 cases. Blood. 1977;50:481-492
2) Hinuma Y, Nagata K, Hanaoka M, Nakai M, Matsumoto M, et al. Adult T-cell leukemia: antigen in an ATL cell line and detection of antibodies to the antigen in human sera. Proc Natl Acad Sci USA. 1981;78:6476-6480.
3) 中村茂行、川上 清. HTLV-Iと母子感染. 小児内科 1995:27:1465-1468.
4) Takahashi K, Takezaki T, Oki T, Kawakami K, Yashiki S, et al. Inhibitory effect of maternal antibody on mother-to-child transmission of human T-lymphotropic virus type I. Int J Cancer. 1991:49:673-677
1) 川上清 著:小児疾患診療のための病態生理 HTLV-I感染症,小児内科 Vol 40増刊号、p1205-1208、2008年11月30日発行、東京医学社
2) 川上清 著、岡部信彦 編集:ウイルス感染症 HTLV-I,小児感染症学,p470-475,2007年9月28日発行、、診断と治療社
3) 川上清 著:日常診療に役立つ小児感染症マニュアル 2007 HTLV,日本小児感染症学会編、p453-460,2006年11月15日第2版発行、東京医学社
4) 川上清 著:新しい臨床ウイルス学 HTLV感染症,小児科診療、11:2191-2196, 2005年、診断と治療社
5) Takahashi K, Takezaki T, Oki T, Kawakami K, et al:Inhibitory effect of maternal antibody on mother-to-child transmission on human T- lymphotropic virus type I,International Journal of Cancer, 49:673-677, 1991 Wiley-Liss, Inc.
1) 吉嶺明人 著:ATLシリーズ1 成人T細胞白血病とHAM,2008年12月20日第1刷発行、南方新社 (向原祥隆)
2) 菅付加代子 編集:ATL 治療最前線レポート,2008.1.22、NPO法人「日本からHTLVウイルスをなくす会」(菅付加代子 発行)
3) 渡邉俊樹、上平憲、山口一成 編集:HTLV-1と疾患,2007年6月5日第1版第2刷発行、文光堂
4)Kashiwagi K, et al:A decrease in mother-to-child transmission of human T lymphotropic virus type I (HTLV-I) in Okinawa, Japan,Am J Trop Med Hyg, 70(2):158-163, 2004
5) Takezaki T, et al:Short-term breast-feeding may reduce the risk of vertical transmission of HTLV-I,Leukemia 11:60-62, 1997
1) 渡邉俊樹・山口一成・上平憲 編集:HTLV‐1(ヒトT細胞白血病ウイルスI型)と疾患,文光堂 2007
2) 吉嶺明人 著:成人T細胞白血病(ATL)とHAM (ATLシリーズ1),南方新社 2008
3) 屋形千秋 著:成人T細胞白血病 ATL闘病記(ATLシリーズ2),南方新社 2008
情報の正確性には最善の注意を払っておりますが、内容により生じた損失、損害についてMyMedおよび執筆者はいっさいの責任を負わないものとします。
ご自身の健康上の問題については、専門の医療機関とご相談ください。

※ マイメドでは、疾患項目の追加、および最新情報をお知らせするためにメールマガジンを配信しております。ご希望の方は下記にメールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。
なお、次の職業の方は、職業をご選択の上、メールアドレスを入力の上、送信ボタンを押してください。