膀胱尿管逆流症 - MyMed 医療電子教科書

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最終更新日:2010.11.15

膀胱尿管逆流症(ぼうこうにょうかんぎゃくりゅうしょう)

vesico-ureteral reflux

執筆者: 小林 堅一郎

概要

 膀胱充満時、あるいは排尿時に膀胱内の尿が尿管、腎盂、重症例では腎実質まで逆流する現象のこと1)。尿路感染症、排尿障害などの泌尿器科領域の臨床症状を認めたことのある小児では30~50%で本疾患が検出される3)。また、家族内発生も知られており、同胞内では3分の1に本疾患が検出される 4)。尿路感染症、排尿障害などの泌尿器科領域の臨床症状を認めたことのない小児では0.2~1.0%の発見率である6)。小児科領域における発熱の重要な原因疾患の一つであり、また腎機能障害を来す可能性もあるため、手術療法も含めた治療が必要である。

病因

 人類では、正常では膀胱内圧を上昇させても逆流は生じないことが報告されており2)、尿管膀胱接合部の形成不全、排尿障害などによる同部の機能異常により生ずる疾患である1、2)。性差は欧米では女児に多いとされているが、本邦では概ね男女同数とされている1,5)。新生児、乳児期の発見率は男児が圧倒的に多い。男児のほうが尿道が長いために排尿圧が上昇しやすく、このため重篤な尿路感染症を発生しやすいことが理由として挙げられる5)。人種間による比較では、白人は黒人の約10倍の発生頻度とされているが、本疾患に関連する特定の遺伝子は同定されていない7)。

病態生理

 原発性膀胱尿管逆流は尿管膀胱接合部の先天性形成不全により発生する逆流である。逆流により腎盂炎、腎膿瘍などを併発し、炎症、逆流による腎組織の損傷から腎機能障害を来す。一方、続発性膀胱尿管逆流は尿道狭窄、尿道弁などの尿道疾患や膀胱機能障害などの排尿障害により、尿管膀胱接合部の機能異常を来している状態である。両者には疾患の自然経過、治療方針に明らかな相違があるため、後述する検査で可能な限り分類する必要がある1)。

臨床症状

自覚症状


 尿路感染症による発熱が最も多く、全体の70~90%を占める8~10)。尿路感染症による発熱は、多くは感冒症状を認めず、2~3歳以降では問診により、側腹部痛などの腎盂炎症状の有無も確認可能なことがある1~10)。一方、新生児期、乳児期の多くは非特異的であり、発熱の他に消化器症状、食欲低下、体重増加不良などを呈することがあるため注意が必要である9)。他に失禁、夜尿、排尿障害などで発見される症例、無症状で検尿異常、超音波検査で腎、尿管の拡張から発見される症例もあり、症状は多彩である8~10)。

他覚症状


 近年尿路スクリーニングが進歩しており、自覚症状のない発見も増えている。超音波で高度の逆流があれば、腎盂、腎杯の拡張を認めることがある。また、腹圧の上昇にて拡張の増悪を認めることがある。超音波検査での腎盂、腎杯拡張症例の5~20%に膀胱尿管逆流が関連している。他に検診での蛋白尿、膿尿などから本疾患が発見されることもある。

検査成績

 尿一般検査、採血による生化学一般検査に特異的所見はない。本疾患の診断の第一歩は本疾患を既往などから疑い、後述する検査を考慮することである。

診断・鑑別診断

 尿路感染症の既往のある小児、家族歴があれば、本疾患を念頭に置いた尿路精査が必要である1~10)。本疾患の診断確定には排尿時膀胱尿道造影 (VCUG)が最も重要である。また、逆流の存在があれば、腎機能評価も含めた上部尿路の評価も必要である1)。

○排尿時膀胱尿道造影(VCUG) 逆流の程度はInternational Reflux Study Group が5段階に分類した国際分類(GradeI:尿管のみの逆流、GradeII:尿管、腎盂の拡張を伴わない腎盂に達する逆流、GradeIII:軽度の尿管拡張を伴う腎盂に達する逆流、GradeIV:尿管、腎盂の拡張を伴う逆流、GradeV:尿管、の拡張、蛇行、高度の腎盂の拡張を伴う逆流)が広く用いられている。逆流の程度は治療法の選択に重要である11,12)。本検査では逆流、程度以外にも、膀胱の形態、尿道病変の有無も確認する。

○超音波検査高度の逆流があれば、腎盂、腎杯の拡張を認めることがある。また、腹圧の上昇にて拡張の増悪を認めることがある。超音波検査での腎盂、腎杯拡張症例の 5~20%に膀胱尿管逆流が関連している。低侵襲の検査であり、スクリーニングとしての有用性もあるが1)、中等症以下逆流は検出困難である。

○RI-VCG Tc-pertechnetateを膀胱内注入し、その後生理食塩水を充満させる方法である。逆流の程度の判定、尿道病変の評価が不十分となるため、現在では検査の適応には慎重を期する必要がある1)。

○腎シンチグラフィー本疾患は繰り返す尿路感染により腎機能障害を引き起こす可能性があるため、腎皮質機能の評価は重要である。 Tc-DMSAは腎近位尿細管に取り込まれ腎皮質機能を反映する。感染による瘢痕の有無、摂取率の差から分腎機能の評価に有用である。炎症の急性期は浮腫により集積が悪くなるため、瘢痕の確実な評価には感染後一定の期間をあけることが望ましい。本検査が施行されていれば、排泄性腎盂造影(IVP)による腎瘢痕の評価は不要である12)。

○膀胱内圧測定本疾患に必須の検査ではないが、排尿障害など、続発性逆流の可能性がある小児には治療方針の決定に重要である1,12)。

○内視鏡検査尿管口の位置、形態は逆流と密接な関連があることが従来より知られている。小児では全身麻酔を必要とするため、適応症例は必要最低限とすべきである 1,12)。鑑別診断としては、尿道狭窄、尿道弁などの尿道疾患や膀胱機能障害などの排尿障害により、尿管膀胱接合部の機能異常を来している続発性膀胱尿管逆流症が重要である。1)。

治療

 治療の最大の目標は逆流の消失による尿路感染症の再発防止と腎機能の温存である。本疾患は症例によって逆流が自然消失する可能性があることが知られている。自然消失の機転として、粘膜下尿管の延長、膀胱利尿筋発達による粘膜下尿管の後壁の強化、排尿に関する交感神経と副交感神経の比率の変化などが考えられている1)。
 具体的には、国際分類GradeII以下の軽度逆流例や年少例は逆流が自然消失する可能性が高く国際分類GradeII以下症例の消失率は60~80%とされている10~12)。一方で、高度逆流症例や、年長児例、傍尿管口憩室などの膀胱変形を合併する症例は消失、改善の可能性が低い。これらの背景から米国泌尿器科学会の治療指針は、逆流の程度、年齢、性別、腎瘢痕の有無を総合的に判断して決定することを推奨している10~12)。多くの施設で米国泌尿器科学会の治療指針と臨床症状から治療方針を決定している10~12)。
 治療法には逆流の自然消失、改善を念頭に置いた保存治療と手術療法に大別される10~12)。

保存治療

 乳児例、軽度逆流例には逆流の自然消失の可能性が多分にあり、加えて軽度逆流は腎機能障害に関与しないという報告があるため、抗生物質内服による経過観察が初期治療となる12)。3~6ヵ月ごとに膀胱造影、核医学検査による腎瘢痕評価の局所検査を行う必要がある。保存治療には経過観察の期間、薬剤投与期間に一定の見解がないため、施設によって若干の差があるのが問題である10,12)。

手術療法

 初診時の検査所見で逆流消失の可能性が低いと判断される膀胱変形合併例や年長児例に対して考慮する。また保存治療継続も逆流が残存する場合や、尿路感染症を繰り返す症例も手術の適応となる。手術は従来から行われている開腹手術と近年導入されつつある内視鏡手術がある1,10~12)。

開腹手術

 何種類か方法があるが、原理は膀胱壁内尿管の延長と、後壁の補強を主目的としている。逆流の消失率は95%以上と良好である。術後の疼痛は不可避であるが、麻酔技術の進歩に伴い、術後入院期間の短縮とともに管理も良好となって来ている10~12)。

内視鏡手術

 軽度逆流でありながら、腎瘢痕の進行を来したり、感染を繰り返す症例も少なからず認められる10~12)。また、全身状態から開腹手術困難な症例には近年内視鏡手術が導入されて来ている。内視鏡手術の利点は開腹手術と比較して低侵襲であり、術後の疼痛が軽度であること、入院期間が短いことが挙げられる。一方手術成績は開腹手術と同等の結果にはまだ至っておらず現段階では適応を慎重に考慮する必要がある10~12)。

予後

 本疾患の解明が進み、手術技術の進歩と相まって治療の最大目標である感染管理、腎機能温存はともに良好に管理されるようになった。その一方で逆流消失後も全症例の3~10%に腎機能障害の進行を来す症例があり12~16)、逆流消失後も少なくとも二次性徴までは腎機能について定期検査の必要がある 1,10~16)。

最近の動向

 診断技術、手術技術の進歩により治療法も内視鏡手術、腹くう鏡手術の導入など多種多彩と成ってきている。このなかで、一人一人の患児、家族にとって最も適切な治療法を選択することはさらに重要かつ困難に成ってきている。軽度逆流の継続する症例に対する対応、腎機能障害の進行を来す症例に対する治療法の確立が今後の課題である12~16)。

参考文献

1)島田憲次:膀胱尿管逆流症.小児泌尿器科学書(川村猛、小柳知彦編),金原出版,東京, 261-283,1998.

2)Young HH, WessonMB:The anatomy and surgery of trigone.Arch Surg,3:1,1921.

3)Wein HA, Schoenberg HW:A review of 402 girls with recurrent urinary tract infections.J urol,107,329-331,1972.

4)Jerkins Gr,Noe HN:Familial vesicoureteral reflux: a prospective study.J urol,128,774-778,1982.

5)島田憲次、細川尚三、島田富美:膀胱尿管逆流に対する乳児逆流防止術とその成績.日泌尿会誌,87,909-914,1996.

6)Ransley PG, Ridson RA:Reflux and renal scarring.Br J Radoil,14,1,1978.

7)Jones BW, Headstream JW:Vesicoureteral reflux in children.J Urol,80,114,1958.

8) 生駒文彦、島田憲次、鹿子木基二:VURとreflux nephropathy.吉田修編:ベッドサイド泌尿器科学,診断治療編.南江堂,東京,519-533,1986.

9)Woodard JR, Holden S:The prognostic significance of fever in childhood urinary infections.observation in 350 consective patients.Clin Pediatr,15,1051-1054,1976.

10)小林堅一郎、北島彰子、多田実、他:小児原発性膀胱尿管逆流症310例の臨床的検討―現状の管理の有用性と今後の課題―.日大医学雑誌, 64,389-392,2005.

11)International Reflux Study Committee: Medical versus surgical treatment of primary vesicoureteral reflux.a prospective international reflux study in children.J urol,125,277-283,1981.

12)山崎雄一郎:小児の尿路感染とVUR. 臨泌,54,689-695,2000.,2002.

13)Bailey RR:Vesico-ureteric reflux and reflux nephropathy.Kidney IntJ ,42,80-85,1993.

14)Arant BS:Vesicoureterericreflux and renal injury.Am J Kidney dis,17,491-511,1991.

15)坂井清英:総腎機能低下を認めた膀胱尿管逆流症症例の検討.日本小児腎不全学会誌,17,207—210,1997.

16)近田龍一郎、折笠精一、坂井清英:特集小児泌尿器科診断;逆流性腎症. 臨泌,48,190-196,1994.

(MyMedより)推薦図書

1) 平岡政弘 著:小児尿路感染症の外来診療マスターブック (Meet the Master Clinician),医学書院 2003

2) 寺島和光 著:小児科医のための小児泌尿器疾患マニュアル,診断と治療社 2006

3) 西澤理 編集:よくわかって役に立つ排尿障害のすべて,永井書店 2007
   

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